ココア
あれから―。
時々実家に顔を出すようにしている。
顔を出す、といっても、昼ご飯か晩ご飯を一緒に食べるだけだったけれど。
三人で囲む食卓。
話をするのはお母さんと私ばかりで、お父さんは黙々と食べている。
でも、今のお父さんにとって、食事もリハビリの一つのようなものだ。
介護用の持ちやすい食器などを使い、動かせる右腕で一生懸命だった。
私は、そんな一生懸命に頑張るお父さんを見ていなかったのかもしれない。
ただ、現実を見たくなくて、逃げ続けていただけだったのだ。
お父さんは、自分の体からは逃げられない。
投げやりになったり、不安定になりながらも、少しずつ動いている。
私はそんなお父さんを見ていなかったのだ。
お父さんに寄り添う努力を、私もしていこう。
食べ終わり、立ち上がって居間へ行くお父さんの背中に声をかける。
「お父さん、また、来るね」
足を止め、暫く動かずにいたけれど、また無言でそのまま居間へ行ってしまった。