ココア
画面に映し出される【西原くん】の文字に、もう笑顔になってしまう。
「お、仕事終わった?」
「うん。今、帰るとこ」
「今夜、雪だってな」
「雪だってね」
「倉野。明日、休みだったよな?」
「うん」
「これからさ、ウチに来ない?」
「え?!」
胸の音が受話器越しに伝わってしまうんじゃないか、てくらい、ドクンて響く。
彼がそんなことを言うのは初めてだった。
彼がウチに来ることはあっても、私が彼のウチに行ったことはない。
そんな西原くんからの、突然の誘い。
何かあったのかな─
「え、今日?」
「うん。予定、ある?」
「や、ないよ」
「ウチ、来てよ」
「─うん」
突然の展開に思考が追いつかない。
きゅ、と握った手を胸に押しあてる。
─トクトクトクトク─
手にも響いてきそうな程のドキドキ。
【親友】からの誘いに、こんなにも胸が苦しい。
その苦しさを、いつものように飲み込むしかなかった。