ココア
彼の最寄り駅に着いた頃から、チラチラと雪が降り出した。
細かい雪が、彼の住む街に落ちていく。
私の上にも。
間もなくして、バイクの音が聞こえてきた。
「悪いな、雪なのに来てもらっちゃって」
珍しく、申し訳なさそうな顔で彼が私に近づいてきた。
─きゅ…ぅぅ─
彼の顔を見た瞬間、胸が音を立てて泣く。
それくらい、西原くんの顔は切なそうに笑っていた。
「乗って」
そう言ってヘルメットを慣れた手つきで渡す。
あまり賑わっていない街を抜け、あるアパートの前で停まった。
「ここ、俺ん家。入って」
ちょっと広めのワンルームの部屋には、引っ越し用と思われる段ボールが何個も積み上げられていた。
「引っ越すの?」
「うん。その前に倉野に見ておいて欲しくて」
「え?」
「倉野のおかげだから」
そう言った西原くんは、泣いてるように微笑んでいた。