ココア



ガランとした部屋に、何個も積み重ねられている段ボール。


所在なげに立っている。

そんな私に、唯一残っている家具だ、と言って部屋の隅からソファを引っ張りだしてきた。


「何か飲む?」

「あ、うん」

「ココアでいい?甘くないやつしか作れないけど」

「うん」


キッチンでココアを作ってる背中を見ていたら、なぜか涙がこみ上げてきた。


多分、きっとこの部屋は‥‥‥。



「はい。熱いから気をつけろよ」

「ありがと」

渡されたマグカップから、ココアの熱が掌に伝わる。


コクリと一口飲むと、冷えた体を温かい液体が満たしていった。


「この部屋でさ。陽子と暮らしてたんだ、三年間」

─ああ、やっぱり─


荷物は殆ど片付けられているのに、西原くんではない“存在”が感じられる。

そして、その“存在”に、ますます私は所在を無くす。



マグカップに視線を落としたまま、西原くんは喋った。



< 226 / 247 >

この作品をシェア

pagetop