ココア
ガランとした部屋に、何個も積み重ねられている段ボール。
所在なげに立っている。
そんな私に、唯一残っている家具だ、と言って部屋の隅からソファを引っ張りだしてきた。
「何か飲む?」
「あ、うん」
「ココアでいい?甘くないやつしか作れないけど」
「うん」
キッチンでココアを作ってる背中を見ていたら、なぜか涙がこみ上げてきた。
多分、きっとこの部屋は‥‥‥。
「はい。熱いから気をつけろよ」
「ありがと」
渡されたマグカップから、ココアの熱が掌に伝わる。
コクリと一口飲むと、冷えた体を温かい液体が満たしていった。
「この部屋でさ。陽子と暮らしてたんだ、三年間」
─ああ、やっぱり─
荷物は殆ど片付けられているのに、西原くんではない“存在”が感じられる。
そして、その“存在”に、ますます私は所在を無くす。
マグカップに視線を落としたまま、西原くんは喋った。