ココア



「陽子がいなくなってからも、ずっとこの部屋で暮らしてきた」

「うん」

「陽子の荷物も全てそのまま。何一つ捨てられなかった」

「─うん」

「本当に陽子との思い出と、心中してもいいとさえ思ってた」

「─う、ん」


西原くんは、私の方は見ないまま、淡々と話を続ける。

私も何も言えなくて、ただ頷くしか出来ない。


でも、きっと、西原くんが求めているのは、私の“頷き”

そんな気がした。



「倉野のおかげなんだ」

「え…?」

「ネパールでお前の声を聞いてからずっと」

「……。」

「ずっと倉野に聞いてもらいたかったんだ、陽子のこと」

「西、原くん」


「倉野に、“忘れなくていい”“好きなままでいい”
そう、言ってもらえて」

「─うん」

「なんて言うか、その…。うまく言えないんだけど」

「─うん」

「救われたんだ」





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