ココア



 【救われたんだ】


彼の声が、胸の奥に反響する。


「お前が“親友になる”って言ってくれて、俺…」

「──。」

「凄く凄く嬉しかった。
本当に救われたんだよ、倉野に」


悲しいのか、
切ないのか、
嬉しいのか、
何とも表現出来ない気持ちが、我慢出来ずにホロホロと流れ落ちる。


一つだけ分かる、確かな気持ち。

それは─【恋しい】




「もう、泣くなよ~」

そう言って、西原くんは困ったように笑う。


でも、西原くんの笑顔も泣いているようだった。



「倉野のおかげで、前に進めたんだ。この部屋を引っ越して、俺の人生をまた一歩、歩き出そうって思った」

「ぅ…ん」

「ちゃんと俺の中にいつも陽子がいる。それを忘れなければ、俺はこの部屋じゃなくても、どんな所でもやっていける気がする」

「ぅん、大丈夫。西原くんなら大丈夫だよ」

「引っ越す前に、大切な倉野に、大切な親友に、この部屋を…陽子が居た部屋を見ておいて欲しかったんだ」



< 228 / 247 >

この作品をシェア

pagetop