ココア
私の目線に気づいた彼が、また寂しそうな顔で笑う。
「これさ、陽子が病院で書いていたノート。前に話したよな」
「─あ、うん」
「これを読み返す度に、震える程の後悔に襲われるんだ。苦しくて苦しくて息も出来ないくらいの」
私が想像出来ないくらい、彼はこの3年間苦しんでいたのだろう。
たった一人で。
「元気になりたい、また元気になりたい。
家に帰りたい。直樹との家に帰りたい…。
も…う、元気に歩き回れないの…かな。
死にたくない、
死にたくない、
死にたくない…」
彼女の言葉を口にしながら、西原くんは嗚咽を洩らした。
何も─出来ない。
私には何も出来ない。
ただ、西原くんの心の叫びを聞いてあげることしか─。
ただ、立ち尽くす二人に雪が舞い落ちる。
真っ白で冷たい雪が。