ココア
「おはよ、倉野さん」
朝の通勤電車から降り、職場までの道のりを歩きだした時、佐久間さんに声をかけられた。
「あ、おはようございます。今日は暑くなりそうですね」
9月に入ってから少し涼しい日が続いていたけど、今日からまた残暑が復活する、と朝、天気予報で言っていた。
佐久間さんと並んで歩く。
私が特別小さい訳ではないけれど、背の高い佐久間さんと話す時は、見上げる格好になる。
ふと、西原くんをまた思い出してしまった。
彼と並んで歩いたときのことを。
「あれ?今日はいつもとちょっとカッコ違うね」
「あ、ああ。仕事帰りに友達と会うから」
「デート、かな」
「違いますよ~、残念ながら友達です」
─友達─
嘘を付いた訳じゃない。
だって、友達だもの。
彼は私を友達としてしか思ってないもの。
─だから、嘘じゃない。
私の気持ちは置いといたとして。