ココア



─ああ、もう!新しいヒールなんか履いてくるんじゃなかった─


走りにくいヒールに八つ当たりしながら、駅に滑り込んできた電車に飛び乗った。



息を整えるように、大きく息を吸い込む。


─トクトクトクトク─

といつもより早い心臓の音は、走ってきたことだけが理由じゃないことは分かっていた。



記憶の中だけでしか会えなかった西原くんに、もうすぐ会えるから。


─最初に何話そう?


そんなことを考えると、ますます空回りしそう。


窓に映る自分を見る。


走ってきたせいで、少し髪が乱れてる。


─直す時間、あるかな



電車が待ち合わせの駅に着いた。


19時40分。


トイレに寄って鏡を見ようか悩んだけれど、私の足は、もう待ち合わせの場所に駆け出していた。






< 39 / 247 >

この作品をシェア

pagetop