ココア
─ああ、もう!新しいヒールなんか履いてくるんじゃなかった─
走りにくいヒールに八つ当たりしながら、駅に滑り込んできた電車に飛び乗った。
息を整えるように、大きく息を吸い込む。
─トクトクトクトク─
といつもより早い心臓の音は、走ってきたことだけが理由じゃないことは分かっていた。
記憶の中だけでしか会えなかった西原くんに、もうすぐ会えるから。
─最初に何話そう?
そんなことを考えると、ますます空回りしそう。
窓に映る自分を見る。
走ってきたせいで、少し髪が乱れてる。
─直す時間、あるかな
電車が待ち合わせの駅に着いた。
19時40分。
トイレに寄って鏡を見ようか悩んだけれど、私の足は、もう待ち合わせの場所に駆け出していた。