ココア
待ち合わせ場所、溢れるほどの人の波の中、彼がいた。
─西原くん、だ─
こんなにもたくさん人がいるのに、すぐに彼の姿だけ目に飛び込んできた。
西原くんも私に気が付く。
ドクン、と身体ごと波打つ気がした。
ふと、不思議な感覚に陥る。
私たちだけ時間が動いているような…
私たちだけ時間が止まっているような…
ユラリと揺れる時間の狭間に、二人っきりでいるような…
そんな不思議な時間の流れを、元に戻したのは彼の手。
「おう、デコっぱち!」
走ってきたせいで、露わになっている私のおでこをパチンと叩く。
「─な! 久しぶりに会った最初の一言がソレ?」
「ははは、叩きやすそうなデコなんだもん」
そして、その綺麗な手を私の頭に置いた。
「久しぶり、倉野」
低い彼の声で名前を呼ばれ、私の中に暖かい気持ちが満ちてゆく。
会いたかった西原くんが、
26歳の西原くんが、
ここにいる。