ココア



待ち合わせ場所、溢れるほどの人の波の中、彼がいた。



 ─西原くん、だ─



こんなにもたくさん人がいるのに、すぐに彼の姿だけ目に飛び込んできた。


西原くんも私に気が付く。



ドクン、と身体ごと波打つ気がした。


ふと、不思議な感覚に陥る。


私たちだけ時間が動いているような…
私たちだけ時間が止まっているような…

ユラリと揺れる時間の狭間に、二人っきりでいるような…



そんな不思議な時間の流れを、元に戻したのは彼の手。



「おう、デコっぱち!」

走ってきたせいで、露わになっている私のおでこをパチンと叩く。


「─な! 久しぶりに会った最初の一言がソレ?」


「ははは、叩きやすそうなデコなんだもん」


そして、その綺麗な手を私の頭に置いた。


「久しぶり、倉野」


低い彼の声で名前を呼ばれ、私の中に暖かい気持ちが満ちてゆく。


会いたかった西原くんが、

26歳の西原くんが、

ここにいる。






< 40 / 247 >

この作品をシェア

pagetop