ココア



西原くんは、バックパッカー中の出来事を楽しそうに話し、私はそれに精一杯耳を傾けた。


楽しくて嬉しくて、過ぎて欲しくない私の大好きな時間。


西原くんとの大切な時間。



「すいませ―ん、生、ください」


途切れた会話の隙間に、私は気になっていたことを聞いてみた。


「あのさ、なんで仕事辞めたの?」



俯き、少しの間を置いてから、西原くんは話し始めた。


「───自分の人生、この先どうなるかなんて分かんないじゃん?突然明日死んじゃうかもしれないんだし」


「まぁ、そう…だね」


「だからさ、そうなってもなるべく悔いのないように生きたいと思ったんだ」


「─うん」


「今やりたいこと、やれることをやっておきたくなったんだ」


「─うん」


「自分を試したかったのもあるかも、な」


「─うん」


「この選択が間違ってたとしても、その時の俺がやりたかったことなら─それはそれでいいと思ったんだ」


「─うん」



私は“うん”しか言えなかった。





< 48 / 247 >

この作品をシェア

pagetop