ココア
西原くんは、バックパッカー中の出来事を楽しそうに話し、私はそれに精一杯耳を傾けた。
楽しくて嬉しくて、過ぎて欲しくない私の大好きな時間。
西原くんとの大切な時間。
「すいませ―ん、生、ください」
途切れた会話の隙間に、私は気になっていたことを聞いてみた。
「あのさ、なんで仕事辞めたの?」
俯き、少しの間を置いてから、西原くんは話し始めた。
「───自分の人生、この先どうなるかなんて分かんないじゃん?突然明日死んじゃうかもしれないんだし」
「まぁ、そう…だね」
「だからさ、そうなってもなるべく悔いのないように生きたいと思ったんだ」
「─うん」
「今やりたいこと、やれることをやっておきたくなったんだ」
「─うん」
「自分を試したかったのもあるかも、な」
「─うん」
「この選択が間違ってたとしても、その時の俺がやりたかったことなら─それはそれでいいと思ったんだ」
「─うん」
私は“うん”しか言えなかった。