ココア
「麻梨ちゃん、彼氏出来たの?」
アルコールのせいで真っ赤になった頬を、手でさするように動かす。
その仕草は、佐久間さんが照れ隠しする行為だった。
「彼氏、出来てませんよ」
「だって、ほら。宮村が昼間さ、言ってたじゃん?」
「あ―、アレは宮村くんが勝手にそう言ってるだけですよ」
誤魔化したいのか、つい目を伏せて早口で言ってしまう。
─誤魔化す?
私は佐久間さんに、何を誤魔化したいの?
どうして誤魔化したいの?
「…そっか。そっかぁ」
安心したような佐久間さんの声音に、罪悪感が生まれる。
そして、安心しきったその笑顔から目を逸らす。
心が脳に“言うべき言葉”の指令を出した。