ココア
それから。
佐久間さんと別れ、私は一人で帰りの電車に揺られていた。
23時を過ぎ、下り方面の電車内はみな疲れた顔をしているように見える。
私はドア越しに立ったまま、流れていく夜を見つめていた。
ドアのガラス部分に映る自分の顔は、苦しそうな顔をしていた。
夜の闇に、佐久間さんの切ない表情が浮かんでは消え、消えてもなおまた鮮明に浮かび上がる。
「麻梨ちゃん、なにも聞かなかったことにして。今の言葉忘れて。ははは、情けないよな。自分でも呆れるよ」
弱々しく笑う佐久間さんが、今までより近くに感じられる気がしてしまう。
─それは彼にとって皮肉なこと、なんだろうけど
「怖いんだ。気持ちを打ち明けるより、麻梨ちゃんと繋がりがなくなってしまうことの方がずっと…、ずっと怖いんだ」
佐久間さんの言葉は、私の中でいつまでもリフレインされていた。