ココア



留守電の相手が大体見当がつき、歩きながら伝言の再生ボタンを押した。



『あ、麻梨?お母さんだけど。今月分、早めに振り込んでもらっていい?』


その次に続く言葉も、想像が出来た。


『それから、たまには顔見せに来なさいよ。ね?』



私は実家に毎月、仕送りをしていて、その催促の電話だった。


正直、顔を見せずにお金を振り込むだけにしたかった。


実家に帰ることは、私にとって躊躇されることだったから。


私が帰ったって…喜ぶのはお母さんだけなのに…



胸の中でだけ呟いたけれど、それは私の中に反響して更に気分が下がる。





でも。


確かに、随分と帰っていなかった。


何かと理由を付けては、帰らなかった。


そろそろ、顔見せた方がいいに決まっている。





次の日。



途中のATMでお金をおろし、重くなりがちな足を実家へと向けた。





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