ココア
実家の玄関の前で自然に足が止まる。
入りたくない
帰りたくない
あの現実を見たくない
それでも、ここまで来たのだからせめてお母さんの顔だけでも見て帰ろうと思った。
「ただいま」
住み慣れた筈のドアを開け、力なくお母さんに声をかける。
住み慣れた筈の、私が22歳まで育ったこの家は変わってしまっていた。
段差を無くし、手すりをつけ、車椅子や杖を使っての歩行をしやすくしてある。
バリアフリーにリフォームされたこの家に帰ってくる度、私の居場所のなさを感じる。
「おかえり、麻梨」
お母さんの顔を見て、安堵と心配が入り混じった気持ちになる。
なんだか、随分と疲れて見えた。
「せっかくだから、夕飯食べていきなさいよ」
お父さんが来ないことを願いつつ、リビングへ向かう。
こんなことを考えてしまう自分が悲しかった。