ココア
久しぶりのお母さんのご飯は、やっぱり美味しくて。
お母さんの顔を見れたし、私の顔も見せられたし、それだけでも来て良かったのかもしれない。
「お母さん、これ…」
銀行の封筒に入ったお金を出そうとしたとき、お父さんがお母さんを呼ぶ声がした。
「おい!おい、母さん!いないのか?」
ビクッと体が反応する。
コツコツと、不規則なリズムの杖の音が近づいてきて、お父さんがキッチンへ入ってきた。
「なんだ。母さん、いるじゃないか。返事くらいしろよ」
「ごめんなさい。お父さん、麻梨が来ててね」
その言葉に、お父さんが私を見る。
「なんだ、来てたのか。声くらいかけろ」
「─ごめん」
「ちっとも顔見せないで!フラフラとどこで何やってんだ!」
「ちゃんと仕事してるよ、もう学生じゃないもん」
声が段々小さくなるのが、自分でも分かった。