ココア



床に突っ伏して喚き出したお父さんの横にお母さんが寄り添い、背中を撫でる。


「大丈夫よ、お父さん。ね?大丈夫だから」


小さい子に語りかけるように、優しく。


それでも、お父さんの耳には届かない。


「うわぁぁあぁああああああ…ぁあ」



喚き続けるお父さん、それをなだめるお母さんの声は涙で震えている。



最悪の場面を作り出したのは私。



その場から一刻も早く逃げ出したくて、バッグを引ったくるように拾う。


「お父さんなんか、もう見たくない」


目の端に、崩れる両親が映る。



「さよなら」



最低の言葉を私は口にした、左半身の自由を失ったお父さんに。





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