そして優しい嘘を言葉に
「章弘先輩」

私がそう呼ぶと。



「美雪、ごめん」



えっ?

グイッと引っ張られて、気が付いたら章弘先輩の腕の中に居た。

驚いて押し返そうとしたけど……。



「ごめん……1分……いや、30秒でいいから、このままで居て」



心の底から搾り出すような声。

まるで壊れ物でも包み込んでいるように、フワッと私の体に回されている優しい腕を……振り解く事が、出来なかった。



章弘先輩からは、柑橘系の爽やかなコロンの香りがした。

涼とは違う香り。

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