そして優しい嘘を言葉に
「沖野先生が、気になる?」

斜め上から聞こえる言葉に、ハッとして視線を変えた。



「熱もあったみたいだから、大丈夫かなぁ……って思って」

「大村さんが居るから、大丈夫だろ?」



登先輩はいつもの明るい口調ではなく、素っ気無い感じで言いながら、どんどん廊下を歩いていた。



「そうですね」

それ以上、何も言えなかった。



さっきの私達……登先輩の目には、どう映ったんだろう?

何も訊いてこないので、逆にどうしていいか分からず、登先輩に引っ張られるまま歩いていた。



どうしよう……もし、さっきの部屋での事を訊かれたら……。

もう誰にも話さない、って決めたのに……。



そんな気持ちが、ずっと私の胸から離れなかった。


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