そして優しい嘘を言葉に
「大学でここを離れても、実家がこっちだったらたまに帰る……そのつもりでいたんだけど、父親の転勤が決まって、俺の家族も引っ越す事になったんだ」



えっ? そんな話、聞いてないよ?



「だから、多分……『同窓会』とか『誰かの結婚式』とか、何かない限りは、もうこっちへは戻って来ないと思う」



章弘先輩は、ちょっと淋しそうに微笑んだ。

もしかしたら、もう会えないかもしれないの?



僚二が目の前で居なくなってから、私は身近な人との別れに敏感になった。

誰かが居なくなる虚しさが、心の中に広がる。



その時。



章弘先輩が笑った。

嬉しそうに、楽しそうに、温かい笑顔。

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