哀・らぶ・優
「うん…」
意外だった。小林先生はその年赴任してきた、新卒の化学の先生だ。
若いが、無頓着に髭を伸ばし、爽やかな感じはなかった。
たまに見せる笑顔は確かに無邪気で、男の僕でもおぉ、と思うところはあったし、女子生徒数人がファンクラブを立ち上げたと聞いたこともある。
だが、君はそんな女子のように先生に馴れ馴れしく絡む風ではなかったし、ミーハーなクラスの女子とは少し違うと思っていた。
『私、兄を中学の時に亡くしてて。大好きだったからすごく哀しかった。
小林先生は兄の高校の時の友達なの。それ知ってから小林先生とはよく兄の話しをするようになって。
最初は兄を知ってる人と話せるのが嬉しかったんだけど。
いつの間にか好きになってたみたい。』
よくある話だよね、と君はまた笑った。
「告白、したの?」
僕の問いに君は首を振る。
『小林先生、彼女がいるんだって。』
我慢していた涙は再び溢れ出した。
僕は君の隣に座って頭を撫でてやるしか出来なかった。