哀・らぶ・優
ひとつうまくいかないことがあると
連鎖反応を起こしたようにその他のことまでうまく回らなくなる。

水を含んだジーンズが肌に張り付いて、重いうえに気持ち悪い。
早く帰ろう、とスピードを出すと今度は、雨が目に入るし鼻に入るしで辛い。

仕方なく、もうどれだけ濡れても一緒だし、とタカをくくってスピードを緩める。




…ふと、課長の顔が浮かぶ。

いつだったか、仕事が終わった後、コーヒーを持っていったら
すごく優しい顔でほほ笑んでくれた時の、あの顔。
ふにゃ、って音が本当にぴったり似合う、あの顔。

「お疲れ様。気がきくね。」

そういって、ふにゃ、って、笑ったんだ。
いつもは固い顔して仕事しているのに、あれは反則だと思う。
あの日から率先してお茶汲みするようになったから、
同期の子からは物好きだと思われるし、
お局様たちからは点数稼ぎだって陰口叩かれるようになった。

「あなたがそんなことするから、私たちの立場がないじゃない」

つまり、そういうことらしい。



でもあたしは、多少風当たりが強くなっても、同期にどう思われても、どうでもよかった。
課長のあの「ふにゃ」を誰にも取られたくなかった。




それが恋だと気付いた時、あたしは同時に失恋をした。
< 37 / 41 >

この作品をシェア

pagetop