哀・らぶ・優
新規のプロジェクトの立ち上げに、課内がバタバタとしていて、ようやく一段落ついた時だ。
いつものように仕事終わりにコーヒーを差し出すと、その日はふにゃ、におまけがついてきた。

「内山くん、この後ご飯でも行かないか?」

すごく親しい、という訳でもなかったのに、なぜ他の誰か―例えば男性社員とか―じゃなくてあたしなのだろう。
そう思うよりも先に、嬉しさがこみあげ、即座に了承した。

連れてこられた居酒屋で、お酒を飲み、おつまみを食べた。
あたしは舞い上がっていた。
課長がいい具合に酔っぱらい出し、仕事について熱弁をふるっている時、
もっと綺麗な下着をつけてくれば良かった、と思っていた。


「それで、息子がさ…」

その一言で瞬時に現実に呼び戻される。
確か課長は独り身のはずだ。
前にスーツのボタンが取れかけていることを指摘すると、カバンから針と糸を出して直していた。
すごいですね、と率直な感想を述べると、

「やってくれる人がいないと、自然とこうなるんだよ」

と、苦笑いしていたのを思い出す。
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