遙か彼方

沈黙を破ったのは彼だった。

「僕はいない方がいいよね」

えっ。

立ち上がろうとする彼のパーカーの裾を咄嗟にグッと引っ張った。

「……居て？」

彼にだけ聞こえるように小さな声で、でも力強く言った。

「……わかった」

そう言うと彼は再び胡座をかく。


２人きりにされたって何を話していいか困る。

だいたい佐山さんは何しに来たんだ。


「美桜ちゃん…、泣いたの？」

あぁ、そうだった。

佐山さんが現れたことで忘れていたけど、私今まで泣いていたんだ。


「さっき様子がおかしかったから心配で見に来たんだ」

そういうことか。

佐山さんは心配してくれていた。

私が手を振り払ったこと怒ってはいないみたい。


「……大丈夫です」

俯いて言うと、佐山さんの視線と同時に彼の視線も感じる。

今まで“大丈夫じゃない”と泣き喚いていたくせに。

きっと彼はそう思って私を見ている。