遙か彼方
「何か…」
そんな私の心を知らず、彼が静かに言葉を発する。
「ん?」
「僕が余計なこと言ったせいだよね…。ごめんね」
お父さんに会いに行けと言ったことを言っているんだろうか。
確かに泣いてしまうほどのことはあったけれど、会いに行ったことに後悔はしていない。
だって…、あの場所にお父さんが居ることがわかっただけで何だか少し安心した気がする。
今までのようにどこにいるのかもわからないような存在ではなくなったから。
「感謝してるよ?」
「え?」
「結果論だけど、今はまだ会えただけでもいいと思う」
私は、葵が居てくれるだけで十分。
「ゆっくりでいいと思うんだ」
「……そう」
「うん。ありがとう」
昼間の彼は大きな真っ黒いサングラスを掛けているから、表情が読み取りづらい。
この時彼が私の言葉に複雑な表情をしていたことを私は知らない。