遙か彼方



階段を上がって私の部屋のドアを開けたのは見知らぬ男性だった。


お父さんではない。

かといって泥棒にも見えない。



その人はお父さんの大学の学生で、“佐山”と名乗った。

大学院生で歳は26歳。

黒髪は長くも短くもなく、黒ぶち眼鏡をしている。

優しい物腰で話す人だった。



「美桜ちゃんだよね?迎えに来たよ」


その言葉は貴方に言って欲しい言葉じゃない。

それでも私は黙って佐山さんの車に乗り込んだ。



車の運転をしながら佐山さんは話し出す。


学校が家に電話をしても応答なしの状況に手をあげ、学校に教えてある私の緊急連絡先に電話をしたらしい。


第一緊急連絡先はお母さんのケータイ。

第二緊急連絡先はお父さんの大学。


お父さんもケータイは持っているけど、出ないことが多い。

だから大学に電話して呼び出して貰った方が手っ取り早い。



お母さんのケータイは解約されているらしかった。

そこまでしなくても……。

逆に言うと、お母さんはそこまでする程追い詰められていたということなのかもしれない……。






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