遙か彼方
窓の外を見ると空は茜色に染まり始めていて、その中にいつものようにヒマワリが咲いている。
「私気付いたことがある」
「何?」
「貴方の名前」
「…あぁ」
「日向 葵ってヒマワリからでしょ?」
ヒマワリを漢字で書くと“向日葵”。
日向葵は向日葵を並び替えただけ。
「美桜に名前を訊かれた時に咄嗟にね」
私が彼に名前を聞いた時、彼は一瞬ヒマワリを見つめた。
あの不可思議な行動は、そういうことだったんだ。
「じゃあ、本当の名前は?」
「シシース」
……え?
今、口から息が出ただけに聞こえたけど……。
「い、今のが名前?」
「うん」
「あ、えーっと…。シーシー?」
「美桜には無理だよ」
「え?」
「地球にはない発音だから」
それを聞いたとき、彼が遠い存在に感じた。
わかっているけど、少し切ない。
私は彼の名前さえ呼べない。
「“葵”って呼んで」
「……葵」
「うん」
「葵」
「うん」
「葵」
「美桜」
おかしなやり取りだってことはわかっている。
だけど私は何度も彼の名前を呼んだ。
遠い存在が少しでも近くなるように。