遙か彼方


「……何で?」


今の話を聞いても会わない方がいい理由がわからない。


「だから彼は近い内にいなくなる」

「だから?」

「だから……」

「何?」

「……彼がいなくなって悲しい思いをするのは美桜じゃないか…」


お父さんは言いづらそうに言った。

そのせいで私は嫌なことを思い出す。

お母さんがいなくなった日……。

お父さんもきっとその日のことを気にして言っている。

だからそんな表情になってるんだと思う。


何より、そうであってほしいと私の心が言っている。

お父さんは変わらず“お父さん”であってほしい。



「お父さん」

私は敢えてそう呼んだ。

「何だ?」

「それは私が決める」

「……そうか」


会話を交わしたせいなのか何なのかわからないけど、私のお父さんに対する怒りが薄れているように感じる。

許してはいない。

怒ってる。

“許したくない”という私の意地がこの複雑な感情をさせる。


でも今日お父さんと話してわかったことは、お父さんは悪いと思っているということ。

それが私の怒りを鎮めさせる。




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