遙か彼方
「機嫌いい?」
どうしてそんなに機嫌がいいのかわからない私は彼に訊いてみた。
「え?」
「さっきからずっと笑ってる」
「あぁ。今日さ、満月なんだ」
そう言って彼が視線を私から再び月に移す。
今日が満月なんだ。
言われてみればそうかもしれない。
今日はこの間に比べて、光が強い。
「満月見てみたかったんだ」
「満月って、私好き」
「ん?」
「落ち着く気がする」
「うん」
二人で並んで見る満月は、眩しいくらいに光を放つ。
正確に言えば月が光を放っている訳ではないけれど。
そこで私はふと気が付く。
月って、太陽の光が反射しているのが月が光っているように見えている。
即(スナワ)ち太陽の光を浴びているのと同じなんじゃないかと思った。
私の横にはサングラスもしていないパーカーも着ていない彼。
私は急に不安になった。
「葵。中に入ろう」
「もう少しここにいたい」
「……」
もう二度と満月を見る事が出来ない彼に私は強く言えなかった。
「じゃああと5分だけ」
「わかった」