遙か彼方
彼は目を丸くして私を見つめた。
でも丸くしたのはほんの数秒で、彼は目を細める。
「……嫌だよ。帰らない」
「帰って」
「嫌だ」
「お願い」
「……嫌だ」
「葵っ」
私は思わず彼の手を握った。
「……どうして?……僕は、ただ…最後まで……美桜といたいんだよ……」
彼は今にも泣きそうな震えた声を出す。
その声に私の視界がぼやける。
私の方が泣きそうだ。
「葵。……間違ってる」
「……間違ってる?」
「葵は、まだ死なないっ…」
そう言ったところで、涙が溢れて頬を伝う。
「何言ってるの。聞いたんでしょ?僕はあと6日しか……」
「だから!それが間違ってる」
「……」
「帰れば大丈夫なんだよ?あと7年は生きられる」
そうでしょ?
私間違っていないでしょ?
「その7年の間に研究が成功するかもしれない。そしたらもっともっと何十年も生きられる!」
「……」
「わかった?」
彼は目を伏せた。
それはまるで納得していないかの様に。