遙か彼方


片手で目を覆うようにして、本棚に背中を付ける。

その姿は泣いている様に見えた。


「美桜は……」


そう言った声は実際涙声だった。


「酷い事を言うんだね……」


その言葉に胸が痛くなる。

“酷い”とわかっていて言った事なのに、やっぱり実際言われると辛い。

独りの寂しさを知りながら、私が彼に生きてほしいという理由で帰れと言っている。

でもそれは彼の為だと信じている。

これは私のエゴ?


「わかった。帰るよ」


それは私の望んだ言葉の筈なのに、ちっとも嬉しくない。

むしろ、悲しい……。


彼が私と一緒にいたいと思ってくれているように、私だって出来ればずっと傍にいたい。

また孤独な日々に戻る事は正直怖い。

今日の退屈だった時間を思い出すと、この先凄く不安でしかない。

図書館という逃げ道すら行かれなくなってしまいそう。


それでも私は涙を拭い、彼に笑顔を向ける。


「良かった」




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