遙か彼方


彼はおもむろに腰を上げる。

その行動の意味がわからなくて私はその様子を呆然と見つめた。


「ごめん…」

「え?」


どういう意味の謝罪なのかわからないそれに私は答えようがない。


「今日はもう…」

「え?」


今日はもう部屋に戻るってこと?

明日帰るんでしょ?

これでお別れなの?


「待ってっ」


私は思わず彼の手を掴んだ。


「ごめん。気持ちの整理が必要なんだ…」


静かな話し声とは反対に、掴んでいない方の手で力強く私の手を外す。


私は大人しくそれに従った。

というか、これ以上抵抗出来なかった。


これが彼との最後の思い出か…。

私が言い出したことだけれど、こんなあっけない別れだとは思っていなかった。

歩き出す彼の背中に聞こえないくらいの小さな声で「さよなら」と言った。


なんだか……。

永遠の別れの言葉に聞こえた……。




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