遙か彼方
その小さな呟きが聞こえたのかはわからないけど、彼は足を止めて振り返る。
「また明日」
少し口角を上げた彼に私は開いた口が塞がらない。
え?
“また明日”?
「何で?」
思わず出た言葉はまぬけな声で出た。
「明日の夜、また来る」
「…帰らないの?」
「帰るよ。明日美桜と会ったらね」
「……そう」
「また明日」
「また明日」
複雑だ。
また明日も会えることが嬉しい気持ち。
もう明日しか会えないという寂しい気持ち。
明日は何を話そうかと期待する気持ち。
もしかしたら明日で二度と会えないんじゃないかと不安な気持ち。
複雑な感情は、私の意思とは無関係に涙を流す。
私は静かな涙を流しながら、離れて行く彼の後ろ姿を見送った。