遙か彼方
晩ご飯のあと、図書館に戻って来ると昨日のように扉の前の階段に座り、空を眺めていた。
でも今日は昨日と違って空は雲に覆われていた。
昼間は大粒の雨が降っていた。
それは、私の心を映すように。
「こんばんは」
私は感情を顔に出さないように言った。
実際どんな顔で言ったのか私にはわからない。
そんな私に彼は微笑んで「こんばんは」と返す。
“笑顔”というより“微笑み”だった。
「美桜、僕大学の外に行ってみたい」
そう言いながら、彼は膝に手を当て立ち上がる。
今日は曇り空だから、月の光を気にする必要はない。
「行ってもいいの?」
「バレなきゃ大丈夫」
イタズラな顔をした彼が、私の手を引き門の方へと歩き出す。
何だかワクワクした。
いけない事をしている。
彼といつもと違う所に行ける。
そんな些細な事に沈んでいた気持ちが浮上する。
「どこか行きたい所ある?」
そう私に訊く彼も嬉しそうで、今度は正真正銘の“笑顔”だった。
「そうだ。いい所に連れて行ってあげる」
「いい所?」
「着いてからのお楽しみ」
彼と行くならあの場所に行くしかない。