遙か彼方


「ねぇ、葵」

「何?」


ヒマワリを見上げている彼に話し掛ければ、そのままの状態で返事が返って来る。


「私が桜の花を好きな理由、聞いてくれる?」

「え?」


やっと私に向いた彼の顔は驚いていた。

前に一度話そうとして話せなかった話。

そのことを彼もきっと覚えていたんだ。


その彼の顔で聞こえていて聞き返したんだと分かった私は「聞いてくれる?」とそこだけもう一度言った。


「聞かせて」


彼は穏やかにそう言った。



今の私なら出来る。

もちろん、あの日が辛い思い出なのには変わりない。

だけどあの頃とは違う。

辛過ぎて家族の話さえも出来なかった頃とは。


私には彼がいる。

お父さんも…、いる。


今はもう大丈夫。

あの悲しみは乗り越えた。

私はもう泣かない。


だから聞いて?

私の大好きな“美桜”という名前の由来。




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