遙か彼方


「桜って4月に咲くのね?」


彼は知っているんだろうか?

桜を。


「知ってる。図書館で調べたから」

「調べた?」

「うん。最初に美桜から桜の話を聞いた時」

「そう」


興味を持ってくれたってことかな?

なんだか嬉しい。


「大きな木に小さなピンクの花をたくさんつける日本の代表的な花だって」

「うん。見たことある?」

「写真でなら」

「そっか…」


出来ることなら実物を見てもらいたい。

写真なんかじゃ伝わらない桜の偉大さ。

家の近くの川沿いの桜並木。

あれは毎年圧巻だ。

私はあの場所が大好き。



「で、4月に咲くんだけど」


私は逸れた話を戻した。


「私の、誕生日……」


一瞬喉が詰まった。


大丈夫。

大丈夫。

私は乗り越えたんだから。


私は胸に手を置いて小さく深呼吸した。

そんな私の頭を彼が撫でる。


いつの間にか落ちていた視線を上げて彼を真っ直ぐ見つめると、金色の瞳を細めて微笑む彼に心が落ち着いた。


「美桜の誕生日は4月なの?」

「うん」


私が話し易いようにバトンまでくれる彼。




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