遙か彼方


「今度は僕の話聞いてくれる?」

「何?」


彼は緩ませていた口元をキュッと引き締める。


「美桜……」

「何?」


金の瞳が静かに真っ直ぐ私を見つめる。

何を言われるのか少し怖い…。

だけど私は彼の言葉を待つ。


一言も逃さないように。



「楽しかった。美桜に会えて良かった」


待った彼の言葉は、別れの言葉だった。


「……うん。私も」

「ありがとう」

「こちらこそ」


彼は右手を差し出した。

“握手”の意味。

……別れの。


私はその手をすり抜けて彼に抱きついた。


「うわっ」


強く突っ込み過ぎたのか、彼がよろめいてさっき差し出した右手を私の背中に当てる。

そんなことには構わず、私はギュッと腕に力を入れて抱きついた。



だって今日で最後かもしれない。

また地球に帰ってくればいい、なんて強気で思っていてもやっぱりそれは100%じゃない。

強気でいたいけど、良くないことも考えてしまう。


もしかしたら……。

って考えたくないことを考えてしまう。




< 157 / 204 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop