遙か彼方
そろそろ普通の生活を取り戻そう。
……以前の生活に戻ることは出来ないけれど、ちゃんと生きよう。
ちゃんと生きて、きちんと勉強しないとハルカには行かれない。
だから、私も死んでたら駄目だ。
……生きよう。
彼は寮の前まで送ってくれた。
月のやんわりとした明るさと違った、蛍光灯の鋭い光が私達を照らす。
……ここで最後だ。
お別れの時間だ。
私は彼の顔が見れなかった。
彼の顔を見たら泣いてしまいそう。
……そんな顔見せたくない。
俯く私の目の前にはピクリとも動かない彼が立っている。
何か言わないと……。
「……あ、あのね?」
私の声は想像していたよりも小さかった。
「うん?」
「私、お母さん、と……別れの言葉、交わしてないの」
「……」
「だから、今度もし誰かとの別れの時が来たらちゃんとお別れの挨拶がしたいって思ってた」
「うん」
「で、でも今はやだな」
「やだ?」
「だって、そんなことしたら永遠の別れになりそうで怖い……」
昨日、そう思った。
彼の背中に“さよなら”と小さく呟いた言葉は思いのほか私の胸に突き刺さった。
ギュッと痛かった。
だから、“さよなら”なんて交わしたくないと思った。