遙か彼方
しばらくそのままでいてくれた。
涙が引いてきた私は「もう大丈夫」と言って彼から離れた。
もう顔は俯かせない。
きっと私の目と鼻は真っ赤になっている。
ブサイクな顔に違いない。
だけどもう泣かない。
笑おう。
彼に私が出来る精一杯の笑顔を向けよう。
そうして彼に視線を向けた。
口角を上げて、目を細めてニコッと笑う。
それを見た彼も笑顔を返してくれた。
………あれ?
何かがおかしい。
いつもと違う。
……目だ。
彼の金色の瞳が褐色掛かって見える。
え、何?
何で?
私はブサイクな顔をずいっと近付けて彼の瞳を覗き込んだ。
すると、チュッと彼の唇が私の唇は一瞬くっ付いた。
「へ?」
何故だか慌てた私はマヌケな声を出しながら、彼から一歩後ろに下がった。
顔が熱い。
「なっ、何?」
「え?キスだけど?」
彼は慌てる私と違い、平然と言った。
「なっ、何で?」
「え??だって美桜が……。あれ?違った?」
どうやら顔を近付けた私は、彼にキスをせがんだように映ったらしい。
……恥ずかしい。