遙か彼方
「お父さんと話したの?」
「はい」
「…そうなんだ。で、何話したの?」
何を話したかなんて決まっている。
あなたがお父さんに報告したことでしょう?
「……」
「…怒ってる?お父さんに嫌なこと言われた?」
何をとぼけたことを言ってるんだろうと思った。
だけど冷静になって考える。
佐山さんにとぼける理由はない。
だって、今とぼけたって意味がない。
バレてることをとぼけたって意味がない。
どういうこと……?
2人で困惑の顔を見合わせた。
「……何?」
先に声を発したのは佐山さんだった。
「佐山さん……」
「何?」
「本当に知らないんですか?」
「ん?」
「私と父が何を話したのか」
「…えっ?俺知ってるの?」
ミーンミーンミーン
佐山さんのマヌケな声と、蝉が鳴いたのはほぼ同時だった。