遙か彼方
「窓から見えたんだ。美桜と彼の姿が」
私は今、お父さんの研究室にいる。
この間とは違い、隣のデスクからイスだけ拝借した私に、お父さんは氷の入った麦茶のコップを手渡しながら言った。
研究室の中にはお父さんしか居なかった。
他の人は出払っているらしい。
階段地獄を越えてきた私は、まだ冷えていない麦茶を一気に飲み干した。
「おー。いい飲みっぷり」
お父さんは感心しながら氷だけになったコップに麦茶をつぐ。
「ありがとう」
「で、佐山くんが言ったと思ったのか?」
「……うん」
コップを回すと中の氷もくるんと回り、カランカランと涼しい音を出す。
「彼はいつだって美桜の味方だよ」
「……何で?」
何で私の味方でいてくれるの?
前から思っていた。
佐山さんが私に優しくしてくれる理由がわからない。
だってきっかけは、ただお父さんの前を偶然通っただけ。
ただ押し付けられただけなのに。
私の面倒なんか面倒くさいと思って当然なのに。