遙か彼方
でもそのお陰で私が救われたのは確かだ。
「“何で”と来たか。そうだなぁ……」
お父さんは目を瞑って腕を組み、ついでに足も組んだ。
背もたれに背中を預けたせいでイスがギシっと音を出す。
その間私はコップを回した。
コップの外側に出来た水滴が今にも私の足に落ちそう。
「佐山くんにとって、美桜は特別なんじゃないか?」
お父さんは目を瞑ったまま言った。
「特別?」
またイスをギシっと音をさせて上体を起こして、目を開けた。
「いや。恋愛感情かはわからないぞ?でも彼は美桜を思っての行動をとってくれた」
「…うん。知ってる」
「だから、美桜を裏切るようなことをするような奴じゃないよ」
「うん」
お父さんの手が私を宥(ナダ)めるように頭を撫でた。
その表情は至極穏やかだった。
“特別”か。
なんだかスッキリした。
佐山さんはやっぱり佐山さんだった。
それがわかって嬉しくなった。
今度ちゃんと謝ろう。
“疑ってごめんなさい”って。
「それで?用件はそれだけか?」
「あ、ううん」
コップの水滴はいつの間にか足に垂れていた。
私は麦茶を一口飲んでデスクに置き、本題に入る。