遙か彼方
「どういうこと?」
私は素直に疑問を口にした。
「家からの方が通いやすいだろ?」
「…まぁ、確かに」
「だから寮は出て家に戻ればいい」
家に戻る……?
あの家に……?
あの日以来帰っていないあの家に私1人で帰れって言うの?
「……嫌」
「ん?」
「私、帰りたくない」
前に進もうって決めた。
あの頃とは違うとも思った。
だけど……。
あの家に1人は嫌だ。
独りは嫌だ。
「寮でいい」
「……美桜」
「家には帰らない」
「研究チームを抜けたんだ」
「……何?」
“研究チームを抜けた”
そう聞こえた。
でもそんなはずない。
だってお父さんは研究をしたいが為に家に帰って来なくなった。
だから私の家族は崩壊した。
それが抜けるなんて、辞めるなんてありえない。
そう簡単に辞める訳がない。
「研究チームを抜けたんだ」
だけどお父さんは私を見つめて、ハッキリと繰り返した。
「一緒に家に帰ろう」