遙か彼方
「行ってきまーす」
「お邪魔しましたー」
「はーい。2人とも気を付けてねぇ」
家を出て佐山さんと並んで歩いた。
駅までは一緒だから。
「今日暖かいねぇ」
佐山さんがうーんっと伸びをする。
「それより。ウチに住むって本気?」
「え?なに美桜ちゃん。俺が住むのイヤ?」
「そうじゃないけど…」
そうじゃないけど、イヤじゃないけどなんか違う。
佐山さんってそんなんじゃないと思う。
「俺だってそのくらいは弁(ワキマ)えてるから大丈夫。住まないよ。さっきはああやって言わないとね」
「何で?」
「断ったら可哀想でしょ?」
「あぁ。社交辞令」
私、社交辞令って嫌い。
無駄な期待をさせるだけで結局は嘘ついてるだけだから。
「その冷たい視線止めてください。お兄さん泣いちゃう」
「フーン」
私は言葉通りフーンっと顔を背けた。
「出たよ。ツンデレのツンが」
「あっ、それ。お母さんの前で変なこと言わないでよ」
「あはははっ」
佐山さんのこの笑顔には何度も救われた。
お母さんにもそうだけど、私にとっても佐山さんはなくてはならない存在。
大切な人。