遙か彼方
「え?何?」
私が彼の手前で立ったまま凝視していると、彼はすっとんきょうな声を出した。
どうやら私が最初に出した情けない声のことを忘れているみたい。
「だから、誰?」
忘れていることに少しイラッとしたのが、私の出した声に現れる。
「………何で?」
……質問を質問で返された。
私の怒りに気付いているのかいないのかわからない彼は、平然とそんな言葉を吐く。
『何で』ってどういうこと?
そこで私は彼の手にある本を指差した。
「それ、私の」
「ん?これ?」
彼は読んでいた本を右手で顔の横に掲げる。
それを私は頷きもせずに見つめた。
「面白いね、これ。犯人がまさか──」
「あっ!!」
「あ?」
「言わないで」
「え?」
「まだ読んでないから」
「あー、ごめん」
危なかった。
犯人が分かったら面白い物も面白く無くなってしまう。
って、内容なんかどうでもいいとか言っておきながら、読んでない先を言われるのは悔しいらしい。
ていうか……。
私がお昼ご飯を食べている間にもうそこまで読んだの?
30分もしていないはず。
早すぎない?
「ん?」
「………」
私は目を細めて彼を上から下まで見た。
格好からして見るからに怪しい。
けど、中身も相当怪しい。
あなた何者?