遙か彼方



「だから、貴方は誰なの」

三度目の同じ質問を。


「そうだったね」

目の前に来た彼は数センチ上からにっこりと笑って私を見下ろす。

黒づくめの白い顔にそんなことをされると不気味に見える……。


「僕は、えーっと……」

彼は私から目線を外し、天井を見たり本棚を見たり、何かを考えているよう。

そして後ろの窓を一度振り返ると、目線が私に戻ってきた。


「僕の名前は日向 葵(ヒュウガアオイ)」



キョロキョロ見回していてまた質問を流されるのかと思っていたら、普通に名前が返ってきた。


今のは何?

行動の目的がさっぱり分からない。


この人やっぱり変だ。




「で、君の名前は?」

「……滝沢 美桜(タキザワミオ)」

「美桜ね。僕のことは葵でいいよ」

「……葵」



そしてこの展開は何?

私は彼をここから追い出そうと思って声を掛けたはず。


何でお互い名前を呼び捨てして呼んじゃってるわけ?


まるで“友達”じゃない。





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