遙か彼方
朝ご飯を済ませて図書館に向かった。
図書館の一番奥の私の場所にはすでに彼が来ていた。
彼は私に背中を向けて、窓の外を覗いている。
何か面白い物でもあった?
私が彼に近付くと、彼は私の気配に気付いたのか後ろを振り返った。
「あ、おはよう」
「……おはよう」
今日も昨日と同じ格好。
大きなサングラスに、長袖の黒いパーカー。
「今日は何の本読むの?」
「え?」
「……え?本、読むんだよね?」
「……………」
そこで初めて気付く。
私の手には本がなかった。
本を選んでここに来ることは習慣になっている筈なのに。
今日は忘れていた。
頭になかった。
どうして?
「そんなに僕に会いたかったのかな?」
「は?」
「いや、冗談です」
そんな馬鹿なことはない。
ある訳がない。
だって私はもう人と関わるのはうんざりだから。
私は恥ずかしさに無言でUターンした。