遙か彼方
本を選んで戻ってくると、彼はまた窓の外を覗いていた。
「おかえり」
彼はさっき同様、私の気配に気付いて振り返る。
気配だけで気付いてくれるのが何だか嬉しかった。
「……ただいま」
そう言ってから思う。
いつぶりの言葉だろう。
凄く久しぶりに言った気がした。
そんな他愛もないことで心がほっこりする。
今日は特別に、彼を追い出すのを止めてあげよう……。
「座る?」
彼が指差すのは小窓の間下。
「……うん」
って私の場所なんだけど。
何故か彼に主導権を握られている。
彼が左に少し寄るから私は右に、本棚に寄って座った。
彼はそのまま私との距離を気にすることなく座る。
胡座をかく足が私に微かに当たる。
足が当たろうがそんなことは気にしてない?
私は更に本棚に寄った。
それはもうびっちりと。