遙か彼方



本を選んで戻ってくると、彼はまた窓の外を覗いていた。



「おかえり」

彼はさっき同様、私の気配に気付いて振り返る。

気配だけで気付いてくれるのが何だか嬉しかった。



「……ただいま」


そう言ってから思う。

いつぶりの言葉だろう。

凄く久しぶりに言った気がした。


そんな他愛もないことで心がほっこりする。



今日は特別に、彼を追い出すのを止めてあげよう……。



「座る?」

彼が指差すのは小窓の間下。

「……うん」

って私の場所なんだけど。

何故か彼に主導権を握られている。



彼が左に少し寄るから私は右に、本棚に寄って座った。

彼はそのまま私との距離を気にすることなく座る。

胡座をかく足が私に微かに当たる。


足が当たろうがそんなことは気にしてない?



私は更に本棚に寄った。

それはもうびっちりと。






< 37 / 204 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop