遙か彼方



彼は再び私の隣に胡座をかいて座り、顔を覗き込んでくる。


「へぇ。何で?」

「私ね、桜が満開の時に生まれたの」

「うん」

「だから毎年私の誕生日は………」


“誕生日”と言って今年の誕生日を思い出してしまった。

桜が大好きな理由を話したいのに、誕生日の話はしたくない。

どうしよう……。



「どうしたの?」

「あ、えっと……」

「美桜?泣きそう?」


彼の言う通り、少し息が苦しい。

すぐにでも泣けそう。


やっぱりあの日を思い出すのが一番辛い。



「ごめんなさい。今はまだ話せない……」

「……うん。大丈夫」



この辛い気持ちが時間が経つことによって和らげばいい。

和らいで欲しい。


そうしたらちゃんと伝えるから。


“美桜”という名前が大好きなことも。






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