遙か彼方
私は本を彼に預けて立ち上がった。
「これ、読み終わったら帰るね」
「……うん」
私が戻ってくる前に帰る気なんだろうな。
彼は読むのが早いから。
「美桜?」
「何?」
私は立っていて彼は座ったままだから、下から見上げられる。
それは昨日見下ろされた時とは違い、サングラスの奥の瞳が優しい視線に感じた。
その変化は何が変わったからなのかはまだ分からない。
「僕、いつも夜の図書館に居るんだ」
「夜?」
夜の図書館は閉まっているんじゃないの?
「合鍵持ってるから」
彼は私の考えていることが分かるかのようにそう言った。
「だからさ、美桜が来たいなら、夜においで?」
「分かった」
「……でも」
そう言った彼の声がワントーン低くなった。
「その時は覚悟を決めてね」
「……覚悟?」
「夜、僕に会いにくるのなら─────……」